『学園戦兎トリプルバニー!』プロローグ

4,373文字
広島のファンタジー
広島県北部の名門私立女子校・三ツ矢学園に迫る妖しい「影」--か弱き生徒に卑劣な魔の手が迫る時、《神衣》をまとった正義の変身ヒロインが現れる!
赤・青・黄のセクシー&キュート☆な「バニー姿」で《怪異》と戦う美少女JK三人娘の、激しく、そしてちょっぴり(?)「アレ」な活躍を描く学園バニーバトルラブコメです!

※なお本作は文章:優パパ★、イラスト:タマネギーニョさんの合同企画となっています。

 場所は広島県の北部にある私立三ツ矢学園中・高等学校、時刻は夕方6時過ぎ。


 春休みとなり、日が沈む時間も遅くなってきたとはいえ、もうこの時刻であれば周囲は真っ暗だ。ましてこの学園はかなりの田舎にあるので、月の他にはせいぜい街灯ぐらいしか明かりは無い。


 そんな夕闇に包まれた校舎間の中庭を、高等部の制服である紺のブレザーを着た少女が、スマホの明かりを頼りに、一人不安そうな足取りで歩いていた。


(どうしよう……やっぱり……視線を感じる……)


 部室に財布を忘れたことに気が付き、幸い合い鍵はあるので急いで取りに戻ったものの、さっきからずっと何者かに見られているような感じがする。


 とはいえ、いくら周りを見回しても誰もいない。いないのだが、でも感じるのだ。何者かが周囲の闇の中から、ねっとりと絡みつくような視線でこちらをうかがっている気配を--


(や、やっぱり、あの噂は本当なの……?)


 ゾクリと背中が泡立って、少女は手にしたスマホをお守りのように強く握りしめる。


 そう、この学園では昨年からずっと「怪異」の噂がささやかれているのだ。


 曰く、「出るのだ」と。それが幽霊なのか、またはあやかしの類いなのかは分からないが、とにかく何か「人ならざるものたち」がこの学園に巣くっていると--


 元々、思春期の女の子は「怖い物見たさ」か、この手の話は大好きである。ましてこんな田舎の、それもほぼ全員が寄宿舎で暮らす女子校(この四月からは男子も編入するそうだけど)という閉鎖空間に身を置くだけに、この噂話はたちまちにして学園を席巻していた。


 とはいえ、少女はそういうオカルトの類いには興味は薄く、「気のせいでしょ」と思っていたのだが、しかし実際に体験してみると、とても「気のせい」などではすまされない!


 ……そう言えば、体験談にも色々とレベルがあって、ただ気配を感じたというのもあれば、何か暗い影のようなものを見たというものもあり、更には人型のシルエットを目撃したというより具体的なものまで--


「ひっ!?」


 思わず引きつった悲鳴を上げてしまったのも無理は無い! そんな風にドキドキと噂の詳細を思い出していた矢先に、少女の視線の先にある「闇」が不意に、ぐにゃり--と歪んだのだ!?


(なっ、何っ!? 何が起こってるの--!?)


 そして少女は見た! 闇がぐにゃぐにゃと歪みながら次第に一つの塊となり、やがて女性の顔を形取ったその中心で、妖しく光る二つの目がじっとこちらを見つめ返してくるのを!


「きゃっ、きゃあああああああああああっっ!!!!」


 たちまちにして恐慌状態に陥った少女が悲鳴を上げたその瞬間、突如「顔」の周囲に広がる闇から影で編まれた「糸」のようなものが一斉に伸び、あっという間に少女の四肢を絡め取る!


「あ……」


 少女が正気を保てていたのはそこまでだった。高まる不安の中での怪異との遭遇、更にはひんやりとした「糸」に身体の自由を奪われる中、限界を超えた少女の意識はすっと遠のき、ポニーテールの頭ががくっと力無くうなだれる。


--ウフフ、気を失っちゃったのねぇ。可愛い子☆


 すっかり気を失ってしまった得物を前に、妖しく嗤った黒い「影」は、好都合とばかりに「糸」を操り、ブレザーの留め具を外していく。


--ほ~ら、邪魔なおべべは脱ぎ脱ぎしちゃいましょうねぇ☆


 歌うような声にあわせて、蠢く「糸」は続いてブレザーを外し、スカートを下ろしと、一つ一つ制服を脱がせにかかる。


 リボンタイに続いてブラウスまでもが脱がされると、ショーツと同じ純白のブラが露わになる。胸の大きさはそれほどではないが、いかにも「十代の乳房」にふさわしい、実に可憐な膨らみだ。


--あら、可愛い☆ 良いわねぇ、いかにも青い果実って感じで。お肌もツヤツヤしてるし、きっとまだ誰にも触られたこと無いのよね。ふふふ、これからたっぷりと可愛がってあ・げ・る。どんな新鮮な《エナジー》を味わえるか、楽しみだわぁ☆


 そう言って「影」は楽しそうに嗤うと、今やブラとショーツの他にはソックスしか身につけていない獲物を満足そうに眺めながら、更に何本もの「糸」を伸ばしていく。


 しゅる……しゅるるるる……


 むき出しになった少女の肢体に、影で編まれた「糸」が幾重にも巻き付き、まるで蜘蛛の巣に捕らえれた蝶のようにその全身を拘束していく。下着の色にも負けない白い素肌と、絡みつく真っ黒な「糸」の対比が何とも言えず扇情的な中、ついに「影」は少女の身体を完全にその支配下に置いた。


 「ううん……」と少女は苦しそうにうめくも、今だ目を覚ます様子は無い。そんな中、柔肌に巻き付いた「糸」がほのかに発光すると、続けて少女の全身からキラキラと虹色に輝く光の粒子のようなものが溢れ出した。


--ああ、美味しい☆ さすがは純朴な女子高生ねぇ……すごく甘くて瑞々しいわぁ……☆ これならアタシも。もっとも~っと成長できる……


 うっとりとした声でつぶやきながら、少女からあふれた《エナジー》を「糸」伝いにすすり続ける妖しい「影」。狼藉はそれだけに止まらず、今や「糸」は下着の中にまで潜り込み、少女の甘い《エナジー》を余すところなくすすろうとする!


--じゃあ、そろそろ目を覚ましてもらっちゃいましょうか。脱がすのには便利だったケド、反応してくれる方が《エナジー》も美味しくなるものね。ウフフ、気付いてみたら夜の校庭で下着姿とか、どんなリアクションを見せてくれるかしら--


 嗜虐に満ちた笑いと共に、伸ばされた「糸」が少女の首へと巻き付いていく。そして気を失ったままの少女を覚醒させるべく、キュッと甘く締めつけようとした--


 そのときだった!


「そこまでよ! 邪よこしまなる《禍つ神》の眷属『なりそこない』!!」


--……ッ!? 誰だッ!?


 突然、頭上から響き渡った少女の声! 良いところを邪魔された苛立ちと、正体を知られている困惑の中で、視線を上に向けた「影」の視界に飛び込んできたのは、


「やああああああああっっっっ!!!」


 裂帛の気合いと共に、急降下で突き進んでくるハイヒールの靴底だった!


--ぐはあああああッッッ!


 ズボォォォォォォォォッッ!! 思いっきり顔面を蹴破られた「影」が、苦悶に満ちた悲鳴を上げる!


 この世界では実体を持たない「影」に、物理的なダメージがあるわけではない。とはいえ、闇を凝固させることで具現化している以上、それを蹴散らされてしまえばこの世界に干渉する力も弱まってしまう。


 そして同時に「影」は気付いた。そうか、この少女のこの格好--そう呼ぶには(あと少女が着る物としても)どうかと思う形状だが、間違い無く《神衣しんい》だ。


 ……そう言えば『なりそこない』仲間から聞いたことがある、この学園は実に美味しい「狩り場」だが、ただし三ツ矢神社の加護を受けた守り手がいるから注意しろと--!


--おっ、おのれぇっ! 覚えているがいいッッ!!


 とにかく相手の力量が分からぬままで戦うのは危険だ。せっかく後一歩のところまで成長できたというのに、ここで祓われてしまってはたまらない! 瞬時にそう判断した「影」は忌々しげに舌打ちすると、呪詛の言葉と共に周囲の闇の中へと溶け去っていく。


 そして後には、先ほどまでの禍々しい喧噪が嘘のような、静かな夜の中庭だけが残された--


(ふぅ、何とか追い払えたケド、でももうあそこまで実体化しているだなんて……)


 気を失ったままの被害者が目を覚まさぬよう、慎重に服を着せてあげながら、「影」が《神衣》と呼ぶ衣装を身にまとい、目元をバイザーで隠したその少女は、ギリリと奥歯を噛みしめる。


 精神的に怖がらせているだけならまだマシで、あいつらは成長と共に実体化し、物理的にも人を襲うようになる。今回は間一髪間に合ったが、もし自分の到着が遅れていたら、この子がどんな目に遭わされていたかと思うと、胸がギュッと苦しくなるほどだ。


(そんなことはさせない! じっちゃんが残してくれたこの学園は、「あたしたち」が守るんだ!)


 ……とはいえ、あそこまで育った《なりそこない》は厄介だ。まだ弱い内だったら、さっきのように凝り固まった闇を祓えばヤツらは自然に消滅する。だが、物理面にも干渉できる程に成長されてしまった以上、それを完全に倒すには--


(………………う”う”……《玉神様》に相談するしかないかぁ……)


 しばしの逡巡の後、はぁ……とため息をつくバイザーの少女。だが、被害者に服を着せ終わり、優しくその身体を校庭の芝生に横たえた頃には、その凜々しい横顔には迷いを振り切った覚悟の色が浮かんでいた。


 悩んでいてもしょうがない。だって学園の平和をこの手で守ると誓ったのだから。決めた以上は、やりとげてみせる。たとえそのための手段が、いかに「気が進まない」ものであったとしても!


 バイザーの下の瞳を固い決意に輝かせて、《神衣》の少女は力強く拳を握る!


(天国から見ていて、じっちゃん! あたしたち、がんばるからね!!)


「う……ううん……」


 そのとき、決意に燃えたその足下で、被害者の少女が小さくうめいてうっすらとまぶたを震わせる。たちまちにして「やばっ!?」と表情を変えた《神衣》の少女は「とおっ!」とばかりに飛び上がると、すざまじいジャンプ力ですぐ側の校舎の屋根へと着地した。


「あれ……? 私……どうなって……、夢……?」


 やがて目を覚ました少女が、狐につままれたよう顔でキョロキョロと辺りを見渡すも、しかしすでに怪異は消え去り、普通の夜の中庭しか広がっていない。


(危なかった……、やっぱ、できれば『この格好』は見られたくないもんね……)


 そんな彼女をホッとしながら見下ろした後、やがて顔を上げた《神衣》の少女は、明るい月をバックに再びぴょーんとジャンプすると、そのままぴょんぴょんと屋根を飛び移りながら消えていく。


 これが、この物語の主人公である少年・清水宗春が三ツ矢学園の敷地に初めて足を踏み入れる、ちょうど一週間前の夜に起こった出来事である--


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次回予告!


訳あってこの春から三ツ矢学園に通うことになった、気弱な少年・清水宗春。不安で胸が一杯の中、初めて学園を訪問した宗春は、そこで恐るべき「怪異」に遭遇する! だがそのとき、為す術も無く蹂躙される宗春の前に。赤の《神衣》をまとった美少女戦士が颯爽とその姿を現した!


次回、『学園戦兎トリプルバニー!』第1話「学園の平和はあたしが守る! 颯爽見参、バニーレッド!」に続く!

※なお、本作の続きは「小説家になろう」に掲載されています。

学園戦兎トリプルバニー!~えっちな怪異は許さない!バニー戦士の三人娘は「ピンチ」に負けず魔を祓う~ (syosetu.com)